08/12 23:37 UP! 30秒小説-望遠鏡-秋(アキ)(27歳)
【30秒小説】
-望遠鏡-
少し錆びた鉄の扉は鍵が壊れていて
押せば開くことは僕と彼女しか知らない。
旧校舎の屋上から見上げる空は黒く海のようで、気を抜くと落ちてしまいそうだった。
目が慣れてくる。
空に散らばる星は輝きを増す。
屋上に持ち込んだ天体望遠鏡。
それを覗き込む彼女。
「ねぇ、夜の校舎に入っちゃいけないんだよ」
僕がそう言うと、彼女は笑った。
「いいの、だってこれが最後だから」
いつも彼女はひとりで決める。
いつもほしい言葉を先にくれる。
小さい頃から前を歩く彼女に僕はついて行く。
でも今日は僕が言わなきゃ。
今日は7月7日。
明日彼女は東京に引っ越す。
アルタイルとベガを探す彼女に
かける言葉はすでに決まっている。
03-5579-9383